亡くなった親が貸したお金の回収は可能?相続手続きと時効を弁護士が解説

親が亡くなった後、遺品整理の過程で、親が誰かにお金を貸していたことを示す借用書などが見つかることがあります。

このような場合、残された遺族(相続人)は、そのお金を回収することができるのでしょうか。結論から言えば、適切な手続きを踏むことで回収は可能です。

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貸付金も相続財産に含まれる

相続というと、土地や建物、預貯金といったプラスの財産を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、法律上、相続の対象となる「相続財産」には、借金などのマイナスの財産だけでなく、他人にお金を返してもらう権利(債権)も含まれます。

つまり、亡くなった親(被相続人)が誰かにお金を貸していた場合、その「貸したお金を返してもらう権利」、すなわち貸金債権は、相続財産として相続人が引き継ぐことになります。

この貸金債権は、遺言書で特定の相続人に相続させる旨の記載がない限り、法定相続人がそれぞれの法定相続分に応じて分割して相続するのが原則です。

例えば、相続人が配偶者と子供2人であれば、配偶者が2分の1、子供がそれぞれ4分の1ずつ、貸金債権を相続します。

ただし、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって、特定の相続人がこの債権を相続すると決めることも可能です。その場合は、遺産分割協議書にその旨を明記する必要があります。

いずれにせよ、亡くなった親が貸したお金の回収を試みる第一歩は、その請求権が法的に相続人へ承継されていることを認識することです。

お金を回収するための具体的な手順

貸金債権を相続したことがわかったら、次に行うべきは具体的な回収手続きです。感情的に行動するのではなく、法的な手順に沿って冷静に進めることが重要です。

1. 貸付の事実を証明する証拠の収集

お金を回収するためには、まず「親がお金を貸した」という事実を客観的に証明する必要があります。口約束だけでは、相手方が「借りていない」と主張した場合に水掛け論になってしまいます。

証拠として有効なものは以下の通りです。

  • 借用書(金銭消費貸借契約書):最も強力な証拠です。貸主、借主、金額、返済期日、利息などが明記されていれば、貸付の事実を明確に証明できます。

  • 銀行の振込履歴:親の口座から相手方の口座へ送金した記録は、お金が渡ったことの有力な証拠となります。

  • メールやLINEなどのやり取り:お金の貸し借りに関する内容が記録されていれば、重要な間接証拠となり得ます。

  • 日記やメモ:被相続人が生前に残した日記やメモに、貸付に関する記載があれば、他の証拠と合わせて証明力を高めることができます。

これらの証拠をできる限り集めることが、後の交渉や法的手続きを有利に進めるための鍵となります。

2. 債務者(お金を借りた人)への連絡と交渉

証拠が揃ったら、次にお金を借りた相手方(債務者)に連絡を取ります。まずは、相続人として貸金債権を承継したことを伝え、返済を求める意思表示をします。

この最初の連絡は、後々のトラブルを避けるためにも、配達証明付きの内容証明郵便を利用するのが最も確実です。

内容証明郵便は、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、請求した事実の証拠として残ります。

相手方が貸付の事実を認め、返済の意思を示した場合は、具体的な返済計画について話し合います。一括での返済が難しいようであれば、分割払いの合意書などを新たに作成することも検討しましょう。

3. 法的手続きへの移行

交渉が決裂した場合や、相手方が返済を拒否した場合は、裁判所を通じた法的手続きを検討することになります。

主な手続きには以下のようなものがあります。

  • 支払督促:裁判所書記官が債務者に支払いを命じる手続きです。相手方から異議が出なければ、強制執行が可能になります。比較的簡易で迅速な手続きです。

  • 民事調停:裁判所で調停委員を交えて話し合い、解決を目指す手続きです。訴訟よりも柔軟な解決が期待できます。

  • 訴訟:いわゆる裁判です。証拠に基づいて裁判官が判決を下します。時間と費用がかかりますが、最終的な解決を図ることができます。

どの手続きを選択すべきかは、証拠の強さや請求額、相手方の態度などを総合的に考慮して判断する必要があります。この段階では弁護士に相談するのが賢明です。

注意すべき「時効」の問題

貸金債権の回収において、最も注意しなければならないのが「消滅時効」です。これは、権利を行使しないまま一定期間が経過すると、その権利が消滅してしまう制度です。

時効が完成してしまうと、たとえ借用書があっても、相手方が時効を主張(時効の援用)すれば、お金を回収する権利を失ってしまいます。

貸金債権の時効期間は、2020年4月1日に施行された改正民法によってルールが変わったため、貸付が行われた時期によって異なります。

旧法(2020年3月31日以前の貸付)

個人間の貸し借りの場合、原則として権利を行使することができる時から10年で時効が完成します。

「権利を行使することができる時」とは、通常、契約で定めた返済期日を指します。返済期日の定めがない場合は、貸付時から時効が進行すると考えられます。

新法(2020年4月1日以降の貸付)

改正後の民法では、時効期間が統一され、以下のいずれか早い方が到来した時点で時効が完成します。

  • 債権者が権利を行使できることを知った時から5年

  • 権利を行使することができる時から10年

個人間の貸し借りでは、通常、貸主は返済期日を知っているため、実質的に「返済期日から5年」で時効が完成する場合が多くなります。

時効の完成を阻止する方法(時効の更新・完成猶予)

時効の完成が迫っている場合でも、一定の行為によって時効の進行を止めたり、リセットしたりすることができます。

これを「時効の完成猶予」および「時効の更新」といいます。

時効の更新(旧:中断):時効期間がリセットされ、新たにゼロから進行が始まります。

  • 裁判上の請求(訴訟の提起など)

  • 支払督促の申立て

  • 債務の承認(債務者が「支払います」と認めたり、一部を返済したりすること)

時効の完成猶予(旧:停止):時効の完成が一時的に猶予されます。

  • 内容証明郵便などによる催告(6か月間、時効の完成が猶予されます)

時効が近いと感じたら、まずは内容証明郵便で催告し、その6か月の間に訴訟などの準備を進めるのが一般的な対応です。

相続人間でのトラブルを避けるために

亡くなった親が貸したお金の回収は、債務者との問題だけでなく、相続人間のトラブルの原因にもなり得ます。

貸金債権は相続人全員の共有財産であるため、その取り扱いについては、相続人全員の合意形成が不可欠です。

特に問題となりやすいのが、お金を借りていたのが相続人の一人であった場合です。この場合、その貸付金は、借主である相続人が被相続人から生前に受けた特別な利益、すなわち「特別受益」として扱われることが多くあります。

特別受益とみなされると、その相続人は、遺産分割において、自分が受け取れる相続財産の中から、借りた金額分を差し引かれることになります。これにより、他の相続人との公平を図ることができます。

また、債務者が親族ではあるものの相続人ではない場合など、相続人の間で「回収すべき」「穏便に済ませたい」といった意見の対立が生じることもあります。

このようなトラブルを避けるためにも、貸金債権の存在が判明したら、速やかに相続人全員で情報を共有し、どのように対応するかを話し合う必要があります。

そして、話し合いで決まった内容は、必ず遺産分割協議書に明確に記載しておきましょう。「この債権は長男が相続し、回収手続きの一切を行う」といった形で定めておくことで、後の責任の所在が明確になります。

まとめ

亡くなった親が貸したお金を回収することは、法的に可能です。しかし、そのためには貸付の事実を証明する証拠を集め、時効に注意しながら、適切な手順を踏む必要があります。

貸金債権は相続財産の一部であり、その回収は相続人全員に関わる問題です。まずは相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が債権を相続し、どのように対応するのかを決定しなければなりません。

証拠の収集、債務者との交渉、時効の管理、そして法的手続きの選択など、専門的な知識が求められる場面が少なくありません。特に、相手方が返済に応じない場合や、相続人間で意見がまとまらない場合は、個人で対応するのは困難です。

相続問題や債権回収に詳しい弁護士に相談することで、法的な観点から最適な解決策の助言を受けることができます。弁護士は代理人として債務者との交渉や法的手続きを進めることができるため、相続人の精神的・時間的な負担を大幅に軽減できます。

時効という時間的な制約もあるため、貸付金の存在が判明したら、できるだけ早く専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

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